市民農園と生産緑地制度

生産緑地地区

 生産緑地地区は、市街化区域内にある農地等の緑地機能を活かし、計画的に保全することによって、公害や災害の防止に役立てるとともに良好な都市環境を形成しようとする都市計画上の制度です。
生産緑地地区として都市計画決定されている農地等は具体的には、下記のような取扱いになります。

  1. 農地としての土地利用が都市計画上位置づけられます。
  2. 農地として管理することが義務づけられ、農地以外の利用はできません。
    生産緑地地区内では、建築や開発が原則として制限されています。農業を営むために必要な建築等の行為で生活環境の悪化をもたらすおそれのないものに限り市長の許可等を受け、行える場合があります。

 

買取り申出制度

 生産緑地地区は農地等として管理することが義務づけられていますが土地所有者の権利救済の観点から次の場合、市長に対し買取り申出ができます。

  1. 生産緑地地区に指定されてから、30年を経過したとき
  2. 中心となって農業に従事している者が死亡したとき、または営農できなくなるような重大な故障が生じたとき

 

行為制限の解除

  1. 市長は申出日から1ヵ月以内に市もしくは地方公共団体等で買い取るかどうかの通知をします。買い取る場合は買い取りの相手方と、価格等の協議に入ります。
  2. 買い取らない場合は、他の農業従事者に斡旋します。 買い取り希望がある場合は、相手方と価格等の協議に入ります。
  3. 申出日から3ヵ月以内に買い取りがされず、所有権の移転が行われなかったときは、生産緑地地区内の行為の制限が解除され、住宅や事務所などの建築やその他の宅地造成ができるようになります。行為の制限が解除となった場合は、市長は、所有者に通知します。

   ※ 実態としては、自治体による買い取りはほとんど行われていないようです。

 

認められている農業用施設

  1. 農産物の生産集荷施設、農業生産資材の保管施設、市民農園に必要な施設 ※ただし市長の許可が必要
  2. 90㎡未満の農業生産施設、簡易な農地造成 ※届出のみ

  市民農園施設は許可案件のため、多少手間はかかりますが、物置(農具置き場)や仮設トイレ(下水接続しないタイプ)、休憩施設の設置が可能です。


営農できなくなるような重大な故障

 

両眼の失明、精神の著しい障害、神経系統機能の著しい障害、上下肢の喪失、両手・両足の指の喪失およびこれに準ずる著しい障害、1年以上の期間を要する入院及びその他の事由により農業に従事することができなくなる故障として市長が認定したもの(養護老人ホーム・特別養護老人ホームへの入所、著しい高齢となり運動能力が著しく低下した場合)

主たる従事者

  1. その生産緑地地区の農業経営に欠くことのできない者 (所有権または経営権を有する者
  2. 農業経営の中で主要な働き手である者
  3. 小作人で農業経営の主要な働き手である者

 ※ 農業は家族を中心とした共同経営が多いため、主たる従事者は所有者だけでなく、他の働き手にも認められる可能性があります。(妻・子等)

 

 


生産緑地と相続税

生産緑地で市民農園を開設する前に考えておかねばならないことがあります。不謹慎ではありますが、万一、所有者様が亡くなられた際に、当該生産緑地を売却するのか、それとも維持するのかということです。固定資産税こそ農地課税の生産緑地ですが、市街地にあるため、その潜在的な資産価値は農地の比ではありません。そのため、いざ相続が発生した場合は桁違いの相続税が発生することになります。相続人が農業を継承するのであれば、相続税納税猶予というのが一般的でしょう。兼業農家相続であれば、入園利用方式農園を経営しつつ、納税猶予を申請するというのも手かもしれません。税金を抑えつつ、安定した収入が得られます。

 

生産緑地の売却

前段でも述べたように、主たる従事者の重篤故障や死亡により営農困難になって、生産緑地を手放したいときは市に対して買取申出をする必要があります。その際には所管の農業委員会から主たる従事者の証明を発行してもらいます。ところが、当該地で区画貸し農園を開設していた場合は、主に耕作していたのは「市民」であるため、所有者は主たる従事者に当たらないと判断する自治体が少なからず存在します。相続税の支払い原資を当該地の売却で賄うことができなくなってしまうので注意が必要です。(※1) 

 

(※1) 買取申出の事例では相続税の更正処分に対する取消請求訴訟において「主たる従事者」の解釈が問題となった事例(名古屋地裁平成13年7月16日判決、判例タイムズ1091-224)

 上記判例においては、「主たる従事者」の判断基準について、その者の死亡により、所有者となった相続人が質的又は量的に従前と異なる新た負担を余儀なくされるような場合には、当該被相続人は「主たる従事者」に該当すべきであると判断した上、この新たな負担とは単に労働力の提供という要素のみに限定されるべきではなく、資本その他の経営面における要素を総合的に考慮すべきであると判示しました。